電脳マヴォ・スタッフBLOG:小形克宏:

サイトブロッキングでは海賊版はなくせない:一部改稿

▼サイトブロッキングに関する政府発表

4月13日、内閣府知財本部は「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策(案)」を発表[*1]、刑法にある緊急避難を根拠に、インターネットプロバイダ等が強制的にサイトへのアクセスをブロッキングしても、違法性はないという考え方を打ち出しました。

この政府発表に端を発して、サイトブロッキングの是非について多くの議論が交わされることになったのはご存知のとおりです。私もマンガ業界の末席に連なる者の一人として以下のようなシンポジウムや討論会に参加しました。

▼サイトブロッキングは対症療法にすぎない

これらに参加することで、はっきりと分かったことがあります。それはサイトブロッキングはもちろん、きたるべき法制度整備によっても海賊版はなくならないということです。

もちろん、サイトブロッキングそのものは憲法21条で保障されている表現の自由・通信の秘密を侵すものであり、これを見過ごすことは小社のようなマンガエージェント/配信会社にとって自分の首を絞めるようなことです。政府がサイトブロッキングを押しつけることについて、大きな声で反対を表明したいと思います。

ただし、これらは本来の目的からすれば対症療法にすぎず、サイトブロッキングが海賊版を根絶できるようなものではないことは明らかでしょう。

もちろん、サイトブロッキングの是非を論じることも大切ですが、これに終始すれば本来の目的を見失ってしまうことを危惧します。

▼海賊版サイトがなくならない本当の理由

海賊版サイトとして名前が挙がった「漫画村」[*2]は、今年1月22日の時点で日本におけるアクセス数が31位、月間利用者数は約9,892万人にものぼるという報告があります[*3]。

この圧倒的な数字は、とりもなおさず海賊版サイトがマンガ配信サイトとして大変優れていたということを意味しますし、逆に言えば(遺憾ながら)適法なマンガ配信サイト=私達がユーザの要求を満たせていない、つまり劣っていることの証左でもあります。

もうひとつ、この数字はマンガ配信サイトには驚くような需要がある、別の言葉で言えばビジネスチャンスがあるということを意味しているのですが、これは後述します。

そこで私達が最初に考えるべきは、異常なほど海賊版サイトにアクセスが集中した理由でしょう。衆目の一致するところ、挙げられるのは以下の2点です。

  1. 全ての作品が無料で読める
  2. 掲載作品の網羅性

すなわち「ここにくれば、どんなマンガ作品でもタダで読み放題」ということです。ただしこのうち、①全ての作品が無料で読めることは、あまり大きな問題にはならないと思っています。

現在、多くのマンガ配信サイトでは過半の無料作品を少数の有料作品への誘導に使って利益を上げています。これは有料で読むことを許容するユーザがいるからこそ成立するビジネスモデルです(他にも作品につけた広告によっても収益を得ていますが、これは漫画村も同じで優劣はありません)。

つまり、有料で作品を読むことを多くのユーザが受け入れている以上、あとは割高感を感じさせない有料作品の配分率や、ユーザを自然に誘導するUI設計等、サイトの運用を工夫することで十分に対抗できるので、根本的な要因にはならないと考えています。

(そもそも、私は自分の体験に照らして、子供達にとってマンガは無料で読むものであり、むしろそうすることがマンガの将来を保障すると思っているのですが、ここでは措きます)

したがってここでの本質的な問題は、②掲載作品の網羅性ということになります。そう、日本におけるどんなマンガ配信サイトも、漫画村の掲載作品数には敵わないのが現実なのです。この点を解決しないかぎり、海賊版サイトをめぐるイタチゴッコは未来永劫つづくと見て間違いありません。

▼なぜ網羅的なマンガ配信サイトはできないか

では近い将来、適法かつ網羅的なマンガ配信サイトは生まれるのでしょうか? 私はかなり悲観的な見方をしています。

現在、多くのヒット作品の配信権を持つのは出版社です。したがって、そうしたサイトの成否は主として彼等の判断に委ねられることになります。他方、そうした圧倒的な需要を満たす巨大サイトができれば、すくなくともマンガに限っては、紙の出版の売上高は今まで以上に減衰することは目に見えています。

そのことが分かっているのに、はたして出版社はライバルと手を結んでまで「網羅的なマンガ配信サイト」などという野心的な事業に乗り出せるのでしょうか? 紙の出版というビジネスモデルに、出版社が理解不能なほど強い拘りを示す場面を、私は何回も目にしてきました。そんな私は悲観的な見方をせざるを得ません。

それから、今もなお自作の電子配信を拒否する人気マンガ家が何人もいる現実を忘れてはならないでしょう。「ドカベン」「はじめの一歩」「YAWARA!」「SLAM DUNK」「あずまんが大王」といった屈指の名作が掲載されていないのに、はたして「網羅的なマンガ配信サイト」を自称できるでしょうか?

他にカルテルなど独占禁止法等からも疑義が出ないように工夫する必要があるのですが、上に述べたように、法律以前の問題の方がずっと多いと言えそうです。

2003年、AppleはiTunes Music Storeにより、音楽の適法なダウンロード販売というビジネスモデルを確立しました。そのローンチにあたりCEOだったスティーブ・ジョブズは、旧来のCD販売に執着するレコード会社だけでなく、「アルバム」という表現形式にこだわるロック・スター達をも説得したのは有名なエピソードです[*4]。

前述したように、出版社自身には網羅的なマンガ配信サイトを作ることはできなさそうです。そこで、事の成否は我が国にジョブズのような「奇人」が出現するかどうかにかかっているように思います。

もっと言うと、そうした人物でも出ない限り、マンガ業界は旧来のビジネスモデルを抱きしめたまま、やがて時代の荒波に消えていくのではないでしょうか。

海賊版の被害額が政府のいう通りとは思いませんが[*5]、巨大な需要を見逃しつつある現実をみると、私の懸念はあながち間違いとばかり言えないように思います。

 

※2018年5月6日12時20分、結論部分を中心に改稿、標題に「一部改稿」を付した。

1……「インターネット上の海賊版対策に関する進め方について」[PDF] 内閣府知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議 2018年4月13日
2……漫画村(ただし執筆時点で「サーバが見つかりません」)
3……「漫画村、日本でアクセス数31位!月間利用者数は約9,892万人の国民的サイトになってしまう!」コジテク 2018年1月22日
4……「スティーブ・ジョブズ 2」ウォルター・アイザックソン著、井口 耕二訳、講談社、2012年

5……「模倣品・海賊版対策の 現状と課題 – 首相官邸」[PDF] 内閣府 知的財産戦略推進事務局 2017年4月4日