電脳マヴォ・スタッフBLOG:竹熊健太郎:

漫画村問題についての竹熊の見解(増補版)

以下の文章は竹熊がツイッターとFacebookに投稿した文章の増補改訂版である。ネットニュースサイト「ねとらぼ」の運営者と会う機会があり、そこで「漫画村」についての意見を尋ねられたことが、このエントリ執筆のきっかけになっている。私の見解は以下の通りだが、ねとらぼや西村博之氏と同じ意見で、サイトブロッキングは慎重になるべきというものだ。漫画村問題には漫画界永年の宿痾が凝縮されていて、漫画村への対策と同時に、漫画界のビジネススキーム全体を、これを機会に見直し、反省すべきは反省するというのが私の立場である。文中に引用した西村氏の発言中、無料の漫画公開サイトとして「スキマ」が取り上げられ、西村氏はこのサイトを高く評価しているが、スキマはまさに電脳マヴォ合同会社が作品を提供しているビジネス相手であり、このことも、当エントリを執筆した動機になっている。「無料で漫画が読み放題」という漫画村のスキームは完全に違法なものだが、違法でない形で定額料金を徴収し、漫画を読み放題とし、著作権者に閲覧料を還元するビジネスモデルは、まさに今、求められているものであり、業界全体で真剣に検討するべき喫緊の課題であると思われる。

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某所で偶然ねとらぼの中の人にお会いした。同誌は漫画村に対する独自の取材でユニークな記事を出しているが、私も、漫画村対策ではネットブロッキングより広告主を追求するのが効果的という、西村博之氏の主張と同じ立場だ。> 「二度と掛けてくるな」 “漫画村”広告主への取材一部始終、広告は取材後に消滅 (1/2) – ねとらぼ http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1804/15/news021.html

漫画村自体は違法なことは間違いなく、怪しからんのだが、漫画村のようなサービスが生まれ、巨大な需要を生んだ背景には「時代の必然性」があるので、このこと自体は議論する価値がある。需要がある限り、第2第3の漫画村は生まれてくるだろう。西村博之氏はそこを問題にしている。

【ひろゆき】漫画村を遮断してはいけない本当の理由 https://youtu.be/nuI7nuLEi3w @YouTubeより >この西村氏の発言中、完全合法で無料で漫画が読めるサイトとして「スキマ」を紹介している。実は電脳マヴォ合同会社はスキマに新作連載マンガを提供するビジネスをしています。

スキマは作家に原稿料を支払って無料で作品公開している。さらに翻訳して全世界規模で無料公開し、広告収入で運営しようという壮大な実験をしているのだ。もちろん、一部作品は有料だが、マヴォ提供の萱島雄太「残夢」は無料で読める。https://www.sukima.me/book/title/zanmu/

ねとらぼの中の方とは取材ではなく立ち話をしただけだが、漫画村問題への意見を聞かれ、「漫画村が巨大な需要の受け皿となった背景には、漫画界の宿痾としての薄利多売体質がある。漫画は過去半世紀、より安く、より多く売るというビジネスモデルが染み付いている。」

「1968年に創刊された少年ジャンプは、59年創刊のマガジン、サンデーに遅れること9年。後発誌のハンディから、定価をサンデー・マガジンより必ず10円下げるという方針を貫いている。業界一位になってもその方針は変わらず、そこから漫画業界のダンピング体質が定着した。」

他社よりもより安く漫画を販売するという姿勢は、漫画の原稿料がその労力に比べて著しく安いという構造的問題を生み出した。連載の原稿料では作家は生活するのがやっとで、アシスタントを使うと赤字になってしまう。俗に言う「連載貧乏」である。しかし価格を下げて販売するしかない現状では、これはやむを得なかった。

それでも90年代までこの矛盾は顕在化しなかった。連載をまとめたコミックス(単行本)が売れたので、連載の赤字が相殺されていたからだ。しかし、この矛盾は出版不況に入り、雑誌も単行本も売れなくなったことで表面化する。

本当なら漫画が売れているうちに、読者の成長に合わせて漫画の価格を適正化するべきだったのだ。しかし薄利多売が成功したため、出版界から漫画の価格を上げる(適正化する)動きはなかなか出てこなかった。90年代にはブックオフや漫画喫茶が問題になったが、これは漫画の長期連載化で巻数が増えすぎたことの当然の帰結だった。

漫画は単価が安いのだが、長期連載で巻数を増やすことで実質的には「高価」なものになっていった。1冊400円のコミックスが50巻になれば2万円である。また20巻を超えた漫画を全巻揃えようという読者は奇特の部類になる。必然的に、漫画はブックオフでまとめ買いして、読み終わったらまたブックオフに売る。または最初から購入しないで漫画喫茶でまとめ読みすることが一般化していった。これが漫画村で「タダで読む読者が急増した」ことの背景にある。つまり、漫画をタダで読むことを当然とする読者層は、永年、ダンピング競争を繰り返してきた出版界が「育ててしまった」ものではないか、というのが私の見解である。値下げ競争の究極は無料化であり、こうなると、合法的な営利企業が追随することは不可能になる。

版元がブックオフの株主になったり、漫画喫茶と貸与権契約を結ぶ動きが進み、前二者とは折り合いをつけることに出版界は成功したが、ここに来ての漫画村の台頭にはなすすべもなかった。これは必ずイタチごっこになる。サイトブロックはたしかに有効だが、「通信の自由の侵害」という禍根を残す。

今更こういうことを言っても遅いかもしれないが、「漫画は実は安いものではない」という事実を、新たな常識として普及させる努力を業界全体で行ってもいいのではないかと思う。合わせて、amazon読み放題サービスのようなものをもう一度、業界が率先して立ち上げるべきではないだろうか。その際、Netflixのように定額制に料金別のコースを設け、多様なサービス(その料金で読める範囲)を提供すれば良いのではないかと思う。

またサイトブロックは最後の手段であり、安易に採用するべきではない。その代わり、違法サイトと知りながら広告を出稿している広告主(及び代理店)に刑事罰を科す法改正をすることが有効ではないだろうか。