電脳マヴォ・スタッフBLOG:小形克宏:

著作権所有者を表示しない©について

こんにちは、小形です。

小社では作家さんと信託契約をむすんだ上で、マンガ作品をアプリ会社さん等に配信しています。現代におけるマンガ市場のポイントは、ユーザへの販売機会をいかにマルチ化できるかです。そこでアプリ会社さんはまた別の会社に外販して、収益機会を広げたりするわけです。

その場合、外販先でキャンペーン用にバナーを作成したりすると、その確認は小社、あるいは小社が仲介する形でマンガ家さんにお願いすることになります。そうして確認を依頼されたバナーの一つに、以下のような©表示がありました。

©A/B
(Aには作家名が、Bにはアプリ名が入ります)

念のためご説明しますと、著作者人格権は作者が、財産権としての著作権は小社が保有しており、このアプリ会社さんには公衆送信による「2号出版権」だけを独占許諾しています。なので、おやと思って以下のような返事を書きました。

これはお願いですが、「©A/B」のうち、「©」だけトルママしていただけないでしょうか。

そもそも©マークは、万国著作権条約第3条に根拠を持ち、著作権者を示すものです。しかし、御社は著作権者ではありませんので、法的には不当表示になりかねません。

万国著作権条約パリ改正条約
http://www.cric.or.jp/db/treaty/bap_index.html

かといってバナーに御社名を表示しない訳にいかないでしょうから、「©」だけを削除してはいかがでしょうか。

(ここで日本での©の運用について追加説明しておきますと、上掲のように©マークは万国著作権条約に根拠を持つものなのですが、1988年に有力加盟国だったアメリカが、もう一つの著作権条約・ベルヌ条約に加盟して以降は、その法的根拠は薄まってます。ただし、他に著作権者を表す適切な方法がなかったこと、海賊版防止のために明確な表示が求められたこと等により、日本においては©を使う「慣習」が広くおこなわれてきました。これは遅くとも1990年代には確立していたと記憶します)

これに対するアプリ会社さんの返事には、私を未知の世界へと誘う衝撃がありました。要するに「著作者表記では “/” の後は発行者という解釈が一般的なので、このままにしたい」というものだったのです。

違和感はありましたが、小社の至上命題は作家さんの利益拡大ですから、アプリ会社さんの収益拡大を促しこそすれ、足を引っぱることなどできません。そこで、「御社の解釈には同意できませんが、ご意向は理解しました」と返事しておきました。

さて、この件どうにもモヤモヤしたこともあってFacebookに書いたところ、いつも親切な高橋征義さん(達人出版会)が、以下の情報を教えてくださいました。

「著作者表記では「/」を入れた後は、発行者という解釈をするのが一般的」というのは、 http://www.ghibli.jp/copyright/ の『火垂るの墓』『耳をすませば』のパターンでしょうか。

https://anime.dmkt-sp.jp/animestore/CF/copyrights こちらでも似た例が散見されますが、規則性があるのかないのかはちょっと怪しいですね

https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/200808/jpaapatent200808_011-047.pdf [PDF]  弁理士会の『パテント』Vol. 61 No. 8の抜粋みたいですが、25ページのコラム「©マークは必ずしも著作権者を表示しない」にアニメの慣習について書かれています。
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さすが高橋さん、見事にポイントを押さえた情報提供です。最後の『パテント』誌の中川裕幸氏によるコラム(p.25)がよくまとまっているので、以下に引用しておきましょう。

(前述したような©マークの法的根拠が薄まったことを説明した上で)

ところが、この条約的根拠が希薄になったこともあり、現在は「著作権者を示す」という狭い意味ではなく、「著作権者のみならず、例えば商品化権などのライセンスに関わる者」を示す、という広い意味で使われるようになる傾向があります。

実際に周りにあるアニメ作品のキャラクター商品を調べてみてください。その多くに、アニメの©マークにつづいて、「原作マンガ家名・出版社名・TV局名・アニメ制作会社名」が記載されているのを目にすることができます。

原作漫画の著作権をマンガ家が、アニメ作品の著作権をアニメ制作会社が有している場合は、それらの間に表記されるTV局や出版社は著作権者ではなく、単に商品化権の管理者であることを示しているに過ぎません。

従って、現在において©マークは「著作権者表示」として正確に機能しているわけではなく、契約を結ぶなどする場合は©マークに捕らわれることなく、真の著作権者が誰であるのかに注意する必要があります。
『パテント』日本弁理士会、2008年8月号所収「©マークは必ずしも著作権者を表示しない」中川裕幸(※適宜改行位置を変更した)

なるほど、件の「©作家名/アプリ名」という表記は、どうやらアニメ業界での流行を背景に、お隣の我がマンガアプリ業界に流入してきたものと言えそうです。

ただし、一般に「©」はコピーライト(著作権)の表示と考える慣習が広く支持されていると思います。その意味でこうした表記は、あくまで狭い、そして近年使われ始めた「特定業界のお約束」に過ぎないと言えます。

“/” で区切ることにより著作権者以外の表示も許すという「拡大解釈」は、多くの人々が©は著作権表示であると信じている中では、いたずらに混乱を招く可能性があることも指摘しておきたいと思います。